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Blutsbrüder teilen alles 友はすべてを分かち合う

オーストリア映画 (2012)

異色の「ナチに追われるユダヤ少年」の映画。私は、この種の映画も相当数観ているが、そして、ナチスがユダヤ人に対して行った行為は人類の恥だと思ってはいるが、悲惨過ぎてあまり好きにはなれない。その最たる映画は、登場人物が少女だが、物議をかもした『ミーシャ/ホロコーストと白い狼』(2007)。ミーシャ・デフォンセカが自分の子供時代の自伝だと嘘をついて出版し、そのあまりの壮絶さにベストセラーとなり、映画化された後に嘘だとバレ、出版社への2250万ドルの返還を命じられたのは有名な話。「悲惨にすれば売れる」という発想は、ホロコーストに対する侮辱でもある。『フェイトレス/運命ではなく』(2005)、『黄色い星の子供たち』(2010)、『ふたつの名前を持つ少年』(2013)などは、何れも観ているのが苦しくなる作品だ。しかし、この映画には、そうした暗さは一切ない。なぜかと言えば、映画の原題、「Blutsbrüder(血盟の友)」が示すように、これは2人の非常に仲のいい少年の堅い友情を主テーマとしているからだ。それに加えて、①主人公のアレックスは自分がユダヤ人だとは全く知らない、②アレックスの美しいソプラノが映画のサブ・テーマになっている、③2人は年上の女性に目がなく、思春期の映画という側面も持っている、④舞台が、敗戦間近のチェコでドイツ軍の存在が希薄、などいろいろな要因が重なり、思わず笑ってしまう場面も幾つかある。こうした「明るさ」「楽しさ」は、この種の映画としては極めて珍しい。1つ問題があるとすれば、英語字幕が存在しないこと。ドイツ語字幕は、省略が多く、英語に直すと意味が通じない箇所が8割もある。そこで、今回の紹介にあたっては100%ロシア語字幕に従った。ただ、ナチスに関わる固有名詞や、面白い言い回しの際のみ、ドイツ語字幕を引用した。

ザルツブルグの近郊の町ハライン〔Hallein〕に住むアレックスとフェリーは、とても仲が良く、血の契りまで交わしている。時は、1944年、ドイツの敗戦の色が濃くなりつつある時期で、ハラインの町も毎日のように空襲に遭っていた。2人は、ローザという少し年上の少女と3人で粘着テープを売る “ビジネス” をしているだけでなく、アレックスは12歳なのに、空襲時の防空壕の中で、ローザに手淫されて喘いだりもする。そんな姿を、町のうるさ型に見られたお陰で、フェリーは、悪友から離すため、母からKLVキャンプ行きを命じられる。それを聞いたアレックスは一緒に行きたいと両親に頼むが、あっさり断られ、家出の形でフェリーに同行することにする。アレックスが家出した その朝、ゲシュタポがやってきて、アレックスは両親の実子ではなく、ベルリンで隣に住んでいたユダヤ人の夫婦の子だと暴露する。もし家出していなかったら、強制収容所送りになるところだった。2人が向かった先は、チェコの旧ボヘミアにある町。KLVキャンプの体育で、体力のないアレックスは来たことを悔やむが、その町にある有名な合唱団TKCの新人募集で、抜群の歌唱力を認められて採用されると暮らしは一変する。合唱団はホテルを丸ごと宿舎にしていて、制服もかっこいいが、問題が1つあった。それは、相部屋で一緒になった合唱団トップのソリストのベンが、アレックスを妬んで嫌がらせを始めたこと。それは、ベンが年齢のため声が出なくなり、ボヘミア地区のガウライター(総括官)の依頼で、町一番のホテルで行った臨時コンサートで、アレックスがソリストを務めてから、ますますひどくなった。ただ、アレックスとフェリーにとって、すべてを忘れさせる出来事も、コンサートの後に起きる。ホテルでの食事会の際、団長と話していた30代の女性ヘレンカに、2人とも恋してしまったのだ。2人は、ヘレンカへの愛を争い喧嘩にもなるが、ヘレンカは自分の年齢の半分しかない子供の求愛などバカにして相手にしてくれない。一方、アレックスがフェリーと一緒に去ったことから、ゲシュタポはアレックスの拘束を地元の警察に打診する。警察署長は、合唱団の団長にアレックスを渡すよう求めるが、ソリストを失うことを恐れた団長は、ガウライターに頼み込み、9月8日に行われるヒトラーユーゲントの12周年記念式典でのコンサートが終わるまで、手出し出来ないようにしてもらう。当然、アレックスは自分の出自を団長から知らされるが、フェリーも含め、ユダヤ人であることを全くマイナスに感じない。それどころか、断られているのに、ヘレンカからキスしてもらおうと知恵を絞り、夢は実現する。そして、コンサートの夜。歌い終わったアレックスは、警察署長に捕まりそうになるが、ヘレンカの兄が地区のボスになっているパルチザンの総攻撃で救われ、フェリーとともに自由へと逃げる。

主人公のアレックスを演じるのは、ローレンツ・ウィルコム(Lorenz Willkomm)。1997年7月17日生まれのドイツ人。映画の撮影は2011年7月11日~8月31日なので、出演時14歳。映画の設定では12歳だが、言動からして14歳というのはぴったりだ。アレックスは、チェコでは一流の少年合唱団のソリストになる役なので、映画の中できれいなソプラノを何度も披露する。しかし、これを本人が歌っているのか、口パクなのか、つきとめることはできなかった。この映画に関する情報が極めて乏しく、エンドクレジットも簡略化されて、細かな情報が伏せられているため。ただ、現在のローレンツの紹介記事を見ると、技能として「Singing: Choir (Professional)」と書かれているので、ひょっとしたら、本人が歌っているのかもしれない。アレックスの血盟の友のフェリーを演じたのはヨハネス・ヌスバウム(Johannes Nussbaum)。1995年5月31日生まれのオーストリア人。撮影時16歳。表情が乏しいのは年のせい。2人とも、それまでTVには出演していたが、本格的な主役はこれが初めて。今でも俳優として活躍しているのはヨハネスの方。

あらすじ

映画の冒頭、オープニングクレジットに混じって、非常に短い映像が、細切れに流れる。①「1932年、ベルリン」と表示され、若い夫婦〔ローゼンクランツ〕が階段を駆け上がる。②赤ちゃんの顔。③中年の男女〔ヴォルフ〕が、先ほどの若い男女と抱き合って別れを告げる。「幸運を」。「ヘルタから聞いて下さい」。ゲアハルト・ヴォルフ:「いったい、どうしたんだ?」。ヘルタ・ヴォルフ:「2人ともリストに載ったの」〔1932年は、ヒットラーがドイツ国首相に任命された年/この段階で2人がリストに載ったのは、ユダヤ人としてではなく、共産主義の反ナチ党分子として〕。④ローゼンクランツ夫婦が旅行姿で階段を走って降りる。⑤2人は夜の街を車で逃げる〔名前は、分かりやすいように示したが、この段階では、“無名の男女4人が、何か分からないことをしている” と言った感じ〕。そして、タイトルの表示。その直後 「1944年、ハライン〔ザルツブルクの南南東15キロ〕」と表示される。冒頭のシーンから12年後だ。郊外の山の上を連合軍の空爆用の大編隊が通過していく。目的地はザルツブルクだ。ハラインの教会では小規模な混成合唱団〔ほとんど老人〕の練習が行われている。指揮をとる女性は、「やめて」と歌を止め、「ぜんぜんだめじゃない」と文句を言う。団員の男性は、「いつ練習できる?」と反論し、「最低でも毎日20分よ」と言われ、「そんなの無理だ」。口論が始まったので、若い3人は抜け出して横のイスに座る(1枚目の写真、右がアレックス、左がフェリー、真ん中がローザ)。指揮の女性は、3人を見て、「やる気があるの?」と咎め、立ち上がったアレックスが加わろうと立ち上がると、ローザが冗談で足を引っかけ、アレックスが転びそうになる。それでも何とか合唱を再開すると、すぐに空襲警報が鳴り出す。先ほどの大編隊が町の上空を通過しかけている〔目標はザルツブルクだが、途中の町にも少し落としていく〕。人々は、すぐに避難を始める。しかし、アレックスとフェリーは、“防空壕に逃げ込む町の人たち” とは逆方向に細い階段路地を駆け上がる。フェリー:「空飛ぶ要塞〔ボーイングB-17〕だと思うな」。アレックス:「ウェリントン〔ビッカース・ウェリントン〕さ」。途中で立ち止まると、アレックスは、「もし、僕が勝ったら、今日は、僕がローザの毛布に入る」と言う(2枚目の写真)。「分かった」。そして、路地の最上部から空を見上げると、アレックス:「ウェリントンだ!」(3枚目の写真)。「そうだな」。「ローザとキスするぞ」。2人は閉鎖ギリギリで防空壕に飛び込む。防空壕の中でアレックスはローザが首からかけた毛布の中に入る。ローザ:「ズボンのチャックを外して」。防空壕は爆弾の衝撃で揺れるが、アレックスは大きな喘ぎ声を出してしまう。「大きな声を出さないの。バカね」。それでも、怖そうなおばさんが寄ってきて、「アレックス・ヴォルフ、どうかしたの?」と訊く(4枚目の写真、矢印は喘いでいるアレックス)。アレックスは、息も絶え絶えに「大丈夫」と答える。空襲が終わった後、ガレキの中を家に戻りながら、アレックスは、「意識を失うかと思ったよ。喘ぎ声の大きさなんか加減できない」とブツブツ。「だけど、加減しなきゃ。もし、何してるか見つかったら、ヒトラーユーゲント〔青少年団〕行きだぞ」。「だけど、ローザが始めたら、何もかも忘れて 飛び始めたんだ」。「分かってるって」。2人が家に戻ると、幸いお互いの自宅に被害はなかった。

家に戻ったフェリーを見て、心配していた母は、「三番壕にいなかった」と言って抱きしめる。「ママ、僕がいたのは五番だよ。心配しないで。僕には守護天使がついてるから」。一方のアレックス。家に戻ってくると、母が、ガラス瓶に何か入ったものを見せ、「これ、どうしたの?」と尋ねる。「ローザのお母さんの店が壊れかけたから、修理を手伝ったんだ」(1枚目の写真、矢印は正体不明の瓶)。「今朝、行ったけど、何ともなかったわ」。「先週だよ。お礼は今日だったけど」。再び、フェリーの家。母:「今日、重大な決心をしたの」。「それで?」(2枚目の写真)。「あなたを、KLVキャンプ〔KLV-Lager/KLVはKinderlandverschickungの略、“空爆の危険にさらされている地域からの学童を避難” の意味〕のリストに入れたわ」。「勝手に?」。「当然よ」。「前もって訊いて、イエスかどうか確かめてよ」。「何を言ってるの。毎日のように空襲があるのよ」。再び、アレックスの家。父は、「この先 数週間、お前は、私の店〔古本屋〕を半日手伝うんだ」と命じる(3枚目の写真)〔2つの家庭で、息子に対する考え方が全く違っている〕。フェリーは、自分がやっている “商売” が、KLVキャンプ送りの原因だと推察し、「ママ、僕はヤノシュ〔偽造屋〕とは違う。まともな取引しかしてないよ。爆撃のことは、アレックスと僕とで研究したんだ。空襲の度に、最寄りの防空壕に走るよ」。「防空壕のことだけど、今日、誰が来たと思う? NSV〔ナチス福祉局〕のリッターさんよ。彼女は、あなた達を見てた。あなたとアレックスとローザを。3匹の豚だって言われた」。フェリーは、開き直り、「母さんが、夜ごと、誰を連れ込んでいるか知らないとでも思ってるの?」と反論し、完全に嫌われる。

フェリーはアレックスが働いている古本屋に行き、呼び出してKLVキャンプのことを話す。そして、その後、まず責める。「言っとくが、みんな君のせいだ。あんな風に喘ぐもんだから」。「それが、どうか?」。「リタのクソが、僕らを見てたんだ。そして、全部ママに話しちまった」。「でも、行かないよね?」。「リストに載ってて行かなかったらどうなるか知らないのか? ヒトラーユーゲントに裏切り者にされる」。「じゃあ、一緒に行こう」。「ちょっとした幾つかのことが、満たされてないとな」。「何?」。「例えば、正気じゃないと…」(1枚目の写真、矢印は1番目を数える指)「君は違う。泳げないと… だが君はぜんぜんダメ。承諾書に両親のサインが要る」。「ヤノシュに頼めばいい」。ところが、ヤノシュの店に行くと、①明後日までかかると言われる。汽車の出るのは明後日の朝9時。これはクリヤー。②手数料は500ライヒスマルク〔1924の発行時点では119ドル≒313円/これは現在の約50万円/1944年の状況は不明だが、多額なことに変わりはない〕。3人が売っている粘着テープを、2人がいなくなった後ローザが売り続けることで、了解を得ようとしたがダメだった。そこで、フェリーはアレックスの両親を説得しようと、家に乗り込む。そして、①1人の教師に10人の子供の丁寧な体制、②戦争も空爆も全くない、③2人は親友でお互いに守り合える、と2人がかりで説得を試みる(2枚目の写真)。しかし、父は、「いくら言っても役に立たんぞ。お互い、しばらく会わない方がいいんじゃないか」と完全否定(3枚目の写真)。そして、翌朝、ヤノシュはゲシュタポに連れていかれ、望みは完全に消える。そこで、フェリーは、「僕の持ってる飛行機の写真をみんなやる」「ローザとテープを売ったら、僕の分は2人で分けろ」「ローザには、僕と同じように君を扱うよう話すよ」と慰める。

夕食を、食欲がないと断ったアレックスは、部屋に行くと、KLVキャンプに行く気で鞄に荷物を詰め(1枚目の写真、矢印)、紐で吊って窓から舗道に降ろす。そして、フェリーの部屋を訪れる。「一緒に、ここで夜を過ごしていい?」。部屋には既にローザがいたので、フェリーにとっては “おじゃま虫” でしかない。だから、追い出そうとする。しかし、アレックスは、ここにローザがいることは予想していて、プレゼントまで用意していた。「最高に美しい女性、大好きな女(ひと)に」と言って、オーデコロンの瓶を渡す(2枚目の写真、矢印)。「私の大好きなオーデコロンじゃないの。どうやって…?」。「僕、鼻が利くんだ」。フェリーは、「じゃあ、出てっていいぞ。明日の朝は早いからな」と追い出しにかかる〔2人の最後の会話からは、アレックスが、いつ一緒に行くことに決まったのか分からない。両親の承諾書はどうしたのだろう?〕。アレックスも必死だ。「もうちょっと、いてもいい?」。「いいや、ダメだ」。この危機を救ってくれたのはローザ。「フェリー、意固地にならないの。別れ際なんだから、アレックスにも同じことをしてあげたいわ」。結局、ローザは、フェリーのベッドの中央に横になり、両脇にフェリーとアレックスが横になる(3枚目の写真)。ローザは、「あなたたちが一番望んでいるもの見せてあげる」と言うが、その瞬間、空襲警報が鳴り響く。フェリーは、「ここにいるぞ」と言い、アレックスも「僕も」と言う。ローザは、「私も?」と乗り気ではない。「ここにいろよ」。「僕らが守るから」。「守護天使だよ」。家が揺れるが、幸い被弾はなかった〔シーンは面白いが、なぜフェリーの母は、一緒に防空壕に行こうと息子を呼びに来ないのだろう?〕

翌朝一番で、アレックスの家の玄関がノックされ、ゲシュタポが入って来る。「君達の息子アレキサンダー〔アレックスの正式名〕の件だ」(1枚目の写真)。ここで、場面はハラインの駅になり、列車の前にフェリーと母、プラス、アレックスがいる。フェリーの母は、「アレックス、ご両親は見えないの?」と訊く。「いいえ、朝早く発ったんです」(2枚目の写真)。フェリーは、ローザが来た時、母にいて欲しくないので、「ママ、仕事に遅れるよ」と言い、別れのキスをもらって2人で客車に乗り込む。再度、アレックスの家。「彼の本当の名前は、ダニエル・ローゼンクランツ、1933年にゲシュタポに追われている時に死んだハナとエリー・ローゼンクランツ夫妻の息子だ」。アレックスの父ゲアハルトは、「違います。2人は逃げてなんかいません。ハンブルクで事故に…」。ここで、母のヘルタが、「2人は、息子さんを私たちに託したのです。その夜、肺炎で入院させました」。「彼らはゲシュタポから逃げていた。共産主義者の新聞に連載記事を書いたばかりでなく、ユダヤ人による反ナチキャンペーンにも参加していたため、1933年3月に政治犯のリストに載った。君たち夫妻はハラインに居を変え、子供に新しい名と出生証明書を与え、ここで 幸せに暮らしてきた」。駅では、列車に乗り込んだ2人が、ローザが遅いのでイライラしている。フェリー:「彼女はどこだ?」。アレックス:「間違った時間を教えたんじゃない?」。「それとも、彼女、わざと遅れてるのかな?」。「勝手な推測はやめろ!」。その時、ローザが走ってくるのが見える。ローザが遅れたのは、お金の工面をしていたから。そして、封筒を渡してくれる。「100ライヒスマルク入ってるわ。粘着テープのあなた達の分け前よ」〔先ほどの概算だと現在の10万円ほど〕「絹のショールでも買って送ってちょうだい」。「手紙書くよ」。そして、汽車は動き出し、2人は手を振る(3枚目の写真、矢印は封筒)。三度、アレックスの家。「子供をアーリア人種だと偽ったことは、ニュルンベルク法のもとで刑事罰の対象となる。だが、君達の評判が非常に高いため、上司は罰しないことにされた。彼を連れて行くだけで許す」。部下がアレックスの部屋に行くと、当然そこはもぬけの殻〔①昨夜の空襲の時、アレックスの部屋を見に行かなかったのだろうか? ②9時過ぎまで朝食もとらずに部屋にいると思うのも変な話〕。部下は置手紙を持って戻ってくる。そこには、「ママとパパへ。フェリーと一緒に行きます。どうか怒らないで。これが一番いいと思ったからです。アレックス」と書かれてあった。フェリーと一緒なら、行き先はすぐに確定できるので、ゲシュタポはそのまま引き揚げる。

2人が着いた先が、「Bad Nymburg, Protektorat Böhmen」と表示される。前半の地名は架空の場所。後半はベーメン保護領〔ナチスがボヘミアに設置したチェコ人の保護領〕なので、ザルツブルクからチェコ西・中部に移動したことになる。KLVキャンプの広い芝生の広場で6人×7列の少年たちが準備体操をしている。体育がすべて苦手なアレックスは、体操中に尻もちをついたり、軽いランニングでも足が痛くて地面に座り込んだり(1枚目の写真)。そして、“泳げることが前提” になっている水泳の時間。チクった少年の指差したドアを指導員が開けると、室内プールの横の小部屋の中で、フェリーがブラシのようなものでアレックスの太ももを擦って傷を付けている最中だった(2枚目の写真、矢印は傷)。「ここで何してる?」。フェリーは擦り傷を指して、「ケガしてるから泳げません」と言う。指導員は、ニヤリと笑うと、「なら、もっといいことをさせてやろう」と言う。2人は、夕闇迫る雷雨の中、芝生の上で腕立て伏せをさせられる。2人は、ぶつぶつ言い合う。「ありがとよ。いいことさせてくれて」。「この恩知らず。水に入らずに済んだじゃないか」。「バカな傷なんかつけて」。「来なきゃよかったんだ」(3枚目の写真)。でも、夜になってベッドに入ると、「フェリー、好きだよ」。「僕もだ」と仲がいいのは変わらない。

ここで、初めて合唱団の団長ホフマンが登場する。そこに、秘書が現れ、「候補者のリストです。明日の9時半。新人が9人来ます。2人は期待できそうです」と報告する。「そうか? ありがとう」。そして、翌日になり、採用試験が行われる。最初の1人は、1オクターブ歌わせ、失格。「座っていいぞ。ありがとう」。次が、フェルディナンド〔フェリーの正式名〕・ガイヤー。「教会の合唱団で歌ってた?」。「はい」。彼も1オクターブで終わり。「第2ソプラノかな? 見てみよう。座って」。そして、アレキサンダー・ヴォルフ。「君も、教会の合唱団か?」。「はい」。アレックスはソプラノだという情報が入っていたので、高いキーから始める。「よろしい。音符は読めるかね?」。「はい」。「シューベルトの『Die Krähe(連作歌曲集「冬の旅」 第2部の「烏」)』は知ってるか?」。「はい」。「結構。じゃあ試そうか。始めるぞ」(→♪♪♪)。アレックスの歌を聞いたホフマンは、「素晴らしい。君はもちろん入団してもらう。座っていいぞ」と嬉しそうに言う。ところが、アレックスは、嬉しそうな顔一つせず、動こうともしない。「何だね?」。「僕は フェリーと一緒にしか歌いません」。「そうか? 誰なんだね?」。「あそこの金髪です」。ホフマンは、フェリーを前に呼び、アレックスには、「君の親戚か、兄弟か?」と尋ねる。「血盟の友です」(2枚目の写真)。ホフマンが血盟の友の意味について尋ねると、フェリーが、「1人を受け入れた時は、もう1人も受け入れる、ことです」と答える。「賢いな。分かった。2人とも採用だ」。

アレックスとフェリーは、KLVキャンプの宿舎から合唱団専属のホテルに連れて行かれる。案内してくれた少年は、「合唱団では、みんな あだ名を持ってるんだ」と話す。「僕は “破片〔Spindlhannes〕”。痩せてるから」。フェリー:「カッコいい制服だね? 全員が着るの?」。「もちろん。一流の合唱団だから」。KLV指導員に部屋に連れて行かれた2人は、先輩〔Stubenälteste〕 のベネディクトに引き合わされ、「彼が、ここを取り仕切り、規則も決める」と告げられる。2人がベネディクトに、「よろしく」と手を出しても、彼は無視し、「僕の呼び名は “首領〔Duce〕” だ。友達になりたかったら、言う通りにしろ」。「なぜ “首領” なの?」。「僕も訊きたい」。2人の質問は無視し、「これが君らのベッドだ。いびきをかいたら、追い出す。夢遊病も、喘息も、寝小便も、無論、無条件追放だ」。そのあと、「ここじゃ、みんなあだ名を持ってる」。フェリー前に立つと、「ゴルディロックス〔Goldlöckchen〕〔『ゴルディロックスと3匹の熊』の主人公、金髪の女の子〕と言う。次に、アレックスの前に立つと、「君は、甘ったるくて、小さくて、ピチピチした小鹿を連想させるから、バンビ〔Bambi〕がいいな」。ベネディクトがいなくなった後、アレックスは、「“首領” なんて、あだ名じゃない」と言う。それを受けて、フェリーは、「僕らは、“大口叩き〔Großgoschn〕” って呼ぼう」と提案する。2人は、ランチに降りて行く。子供たちは、2人を見て、「ベンは、ゴルディロックスとバンビって呼んだ」。「バンビはいいな」などの意見が出る。2人を見たホフマンの妹が2人を手招く。そして、座る場所がないので、「例外だけど、今日はここに座って。食べ終わったら、制服を合わせましょ」と言い、ホフマンの席に連れて行く。それを見たベネディクトは、特別待遇に嫌な顔をする。食後、2人は衣装部屋に連れて行かれ、体に合いそうな制服を鏡の前で試着する(1枚目の写真)。「すごいや」。「僕じゃないみたい」(2枚目の写真)。「女の子が溶けちゃうぞ」。「そうだね」。「その姿をローズが見てたら、君にもチャンスがあったかもな」。「もし、僕を見てたら、君にはチャンスなんてなかったさ」。ここで、場面は変わり、この町の警察署。署員は、チェコ警察の赤い襟の付いた紺色の制服を着ている。そこに、いきなりSS(親衛隊)の少佐〔襟章の「4つの◇」は少佐〕が入ってくる(3枚目の写真、矢印は署長)。署長:「報告します。ウィーンのゲシュタポ本部からの命令で、ユダヤ人の子供1人を、KLVキャンプからプラハの一時収容所〔Sammellager〕に移送します」。しかし、少佐の意見は全く違っていた。「2週間前、シュコダ自動車の工場が爆破された。3日前には東部戦線に物資を運ぶ汽車が脱線させられた。そして、今朝は、プラハとホテルを結ぶ電話線が切断された」。すべては、チェコのパルチザンの仕業だった。署長が汽車の調査について弁解すると、少佐は急に怒鳴り始める。そして、可及的速やかに被疑者のリストの作成を命じる。「それが、成功裏に終わったら、ユダヤの子供を連行し、プラハで楽しい思いをしてくるんだな。逆は許さん!」。アレックスは知る由(よし)もないが、これで彼は即刻逮捕を免れた。

合唱団全員が練習のためピアノの前に並んでいる。2人がピアノの前で待っていると、団長が入って来て楽譜を渡す。そして、「フェリーは、第2ソプラノの “破片” の隣。アレックス、君は巧いからソリストの近くがいい」。そして、ベンの横に入らされる。そして、全員で歌い始める。しかし、アレックスの声があまりにきれいなので、隣のベンは面白くない。そこで、手を上げる(1枚目の写真)。団長が気付かないので、「ホフマンさん」と呼ぶ。「ベン、何だ?」。「新入りを、どこか他に移してもらえませんか?」。「どうして? 楽譜を間違えたか?」。「いいえ、臭いので〔stinkt〕」。団長は、こうした言動に腹を立て、「ベン、君が、どこか好きな場所に移りたまえ」と言う。ベンは、思惑が外れ、恥までかかされたので、憮然として右端の方に移動する。「よろしい。では、もう一度、“Rings dann im Waldeshaus” のところから始めよう」〔シューベルトの『Widerspruch(反抗)』の中の一節〕。ベンの復讐は速やかだった。その夜、アレックスとフェリーが寝ていると、ベンと、その他の同室の3人がこっそり部屋に入って来る。ベンの隣の少年は、ガラスの小さなボール(椀)を手に持っている。中に入っているのは誰かの小便。ベンは、上段のベッドで眠っているアレックスの右手を取ると、ボールの小便に指を突っ込み(2枚目の写真、矢印)、パンツのところに置く。朝になり、ベンが全員を起こす。全員がベッドの前に立つ。ベンはアレックスの右手をつまみ上げ、黄色く変色したパンツが見えるようにする(3枚目の写真、矢印)。アレックスは、「そんな… あり得ません」と必死に弁解する。ベンは、アレックスのパンツが見えるよう、戸棚の前に立たせると、「諸君、どう思う?」と笑い者にする。「こんなこと、一度も経験ありません。フェリーが証明してくれます」。「なぜ、フェリーなんだ? 君ら、同じベッドに寝てるのか?」と、ますます貶(おとし)めようとする。フェリーが、「いいですか?」と助けに入ろうとすると、「どいてろ」と突き飛ばす。「いいか、ここは寮だ。寮のボスは、こんなのを見たら指導しないといかん」。アレックス:「二度としません。約束します」。「“ゴルディロックス” は、合唱団から即刻 追放する」。フェリー:「アレックスは、おねしょ垂れなんかじゃない。誰かが細工したんだ」。この “正しい推測” にベンは慌て、「言葉に気を付けろ。中傷は止めろ。指導員に 失態を知られたくなかったら、バケツとモップできれいに掃除しておけ」と2人に命じる(4枚目の写真)。

その日、団長のオフィスに電話がかかってくる。相手は、ガウライター〔Gauleiter/チェコのズデーテンラント帝国大管区には、歴代ガウライターとしてコンラート・ヘンラインが着任した。しかし、この映画の舞台となっているベーメン保護領は大管区から除外されている。なぜ、そこにガウライターがいるのか?〕。団長はすぐに電話を替わる。「やあ、友よ。今夜、合唱団は暇か?」。「何かお手伝いできることが?」。「ホテル・オイロップ〔ヨーロッパ〕に、重要なゲストが来ることになった」。「何時に伺えば?」。「7時だ」。「参ります。ありがとう。失礼します」。次のシーンで、合唱団は制服着用でホテルに入って行く。入口で迎えた “年季の入った従業員” は、ベンを親しく迎えた後、一番最後にやって来た2人を見て、「君らが新入りだな」と声をかける。「ええ」。「どこから来た?」。「ザルツブルク」。「ザルツブルク! 美しい町だ。女性も美しい」。2人は嬉しそうに笑って中に入っていく。合唱団は、ホテルのロビーで、“重要なゲスト” である元帥〔肩章から識別〕の前で歌を披露する(1枚目の写真、矢印は今後2人と大きな関りを持つヘレンカ)。合唱を指揮してした団長はベンから声が聞こえてこないことに気付く。そこで、ソロのパートが近づくと、ベンに歌わないよう指で合図すると、楽章が終わったところでアレックスを手招きする。そして、「君が歌え。ベンは声が出ない」と耳打ちし、そのまま1人前に立たせる。そこから、アレックスのソロが始まる(2枚目の写真)(→♪♪♪)。聞き惚れていた元帥は(3枚目の写真、矢印)、歌が終わると、真っ先に「とても美しい」と言い、拍手する。

歌が終わると、元帥はすぐに車に乗り込むが、アレックスとフェリーはホテルから走り出てサインをもらいに行く。最初に2人が話しかけた准将の方は、邪険に追い払おうとするが、相手がソリストだと分かった元帥は、「こっちにお出で」と言い、2人から紙を受け取る。「君達の名は」。「アレックスです」。「フェリーです」。「何になりたい?」。2人とも、「爆撃手です」と答える。「違う。戦争が終わったらだ」。アレックス:「戦争が終わったら、僕はオペラのソリストになります」(1枚目の写真)。フェリー:「僕は指揮者です。でも。戦争は長引きますよね」。「いや、すぐ終わるさ」〔映画の進行からみて、この時点で恐らく1944年8月末。8月25日にはパリが解放され、9月21日にはソ連の赤軍とルーマニア軍、パルチザンによりチェコ全体が解放されるので、戦争の終結まで1ヶ月を切っている〕。「そうか、ソリストと指揮者か。2人の姿が思い浮かぶよ」。そう言うと、サインした紙を渡してくれる。ホテルでは、合唱団に夕食が振る舞われている。中で目を惹くのは、団長と話している妖艶な女性ヘレンカ。「私があなたなら、レパートリーを拡げるわ」。「例えば?」。「バルトークの民族音楽は美しいわ」。「ここじゃ、誰も聴かん」。「あなたの合唱団が生き残りたいのなら、ロシアの歌も教えないと」(2枚目の写真)〔上に書いたように、1ヶ月も経たないうちにソ連に支配されるので、この指摘は的を得ている〕。団長の正面の席に座ったアレックスと、その隣でヘレンカの正面に座ったフェリーの2人は、食事も食べずにヘレンカをじっと見ている。それに気付いたヘレンカは、「何見てるの? どこか変?」と訊く。フェリーは、「名前を聞かせていただけますか?」と、丁寧に尋ねる(3枚目の写真)。彼女は「ヘレンカよ」と笑って答えると、「あなた達は?」と訊き返す。「僕はフェリー」。「アレックス」。「きれいな声ね」。団長が嬉しそうにほほ笑む。「フェリーとアレックス、シュニッツェルが冷めるわよ」。合唱団は、団長を先頭に、長い列となって宿舎のホテルに戻る。最後尾についた2人。フェリー:「夢のような女性だ」。アレックス:「素晴らしい女性だね」〔2人ともローザが好きだったが、元々 年上の女性が好みなのかも?〕。「今年一番の女性だ」。「この国で一番きれいな女性だよ」。「アレックス、話しておくことがある」。「分かってる。『今夜、人生が変わった』だろ」〔シンデレラからの引用〕。フェリーは歩くのを止めると、アレックスの肩に手を置き、「今夜、人生が変わった」と繰り返す(4枚目の写真)。

翌朝、遅くまで誰も起きて来ないので、KLV指導員が叩き起こしに部屋に入って来る。一番後から立ち上がって、渋々ベッドの横に立ったのはベン。KLV指導員が、陰部を隠していたベンの手を鞭で横にどかすと、はっきりと寝小便の跡が見える(1枚目の写真、矢印)〔強引で威張りくさったベンも、声が出なくなったことは大きなショックだった〕。「これは何だ? 新入りから感染したのか?」。「ごめんなさい。二度としません」。「その方がいい。でないと、ここを出ていくことになる」。次のシーンは、この手の “ナチス、ユダヤもの” 映画とは、完全に一線を画した映像。庭園の噴水の枠の立った2人は、揃いの黒のサングラスをはめ、「ハハハ、なぜ笑ってるかって? “大口叩き” が寝小便したからさ!」とバンザイし、そのあとは、フェリーが、軍隊調に、「“大口叩き” に対する驚異的な勝利を称え、汝にカフェ・ヤルダンのクリーム・パイをごちそうする」と言い、アレックスが敬礼し、「なんなりと、指導員殿」と応じ、笑い崩れる。ここから場面は、団長の部屋。一緒にいるのは昨日ホテルでの合唱を依頼したガウライター。ガウライターは、開口一番、「ロンメルはどうだった?」と訊く〔昨日の主賓は元帥だった。そして、あの有名なロンメルも陸軍元帥。偶然の一致にしてはできすぎ。しかし、ロンメルは1944年7月17日にイギリス機の機銃掃射で重傷を負い、ドイツの自宅で療養中。しかも、7月20日のヒトラー暗殺未遂への関与を疑われ、チェコに行けるような状態ではなかった〕。「上手くいきました。最近、新しいソリストが入ったので」(3枚目の写真)。「親愛なる、ホフマン君。戦況は耐えられないほど悪い。合唱団もいつまで続けられるか分からん。だが9月8日のヒトラーユーゲントの12周年に合わせ、ウィーンかプラハで計画がある。まだ決まっていない。ウィーン少年合唱団は、俗物的かつ退廃的だからな。思うんだが、君の合唱団を使ったらどうだろう? 予定は入っていないんだろ?」。「ご信頼に応えてみせます」。

次に、ヘレンカと母が話すシーンがある。重要なのは、その中で、「ヴラデックから、何か連絡は?」と訊く。さらに、「奴ら〔ドイツ軍〕は、襲撃のことなんか何も知らない」と言って封筒のようなものを母に渡す。母は、その封筒をドイツ兵に渡し、「ヴァルデンブルク〔チェコ名:Bělá pod Pradědem〕で18時に待ち伏せしてるわ」と嘘の情報を流す〔ヴラデックはヘレンカの兄。そして、パルチザンのボス。世間では2年前に死んだことになっているが、この台詞から、彼はまだ生きていて、活発に活動していることを示している〕。用事が済んで外に出てきたヘレンカを見て、オープンカフェでお菓子を食べていた2人の眼が釘付けになる(1枚目の写真)。ヘレンカはドイツの将校と一緒のテーブルに座るが、将校は、「君をホテル・オイロップに連れて行く。車をすぐに回そう」と言い、席を立つ。1人になったヘレンカを見たフェリーは、アレックスに、「ここで待ってろ。すぐ戻る」と言って(2枚目の写真、矢印はヘレンカ)、ヘレンカのテーブルに向かう。アレックスも負けてはいられないので、すぐ後に続く。ヘレンカの前まで行ったフェリーは、「お邪魔して いいでしょうか?」と訊く。「何なの? すぐに出なくちゃいけないのよ」。「数日前のホテル・オイロップでのこと、覚えてます?」。「冷めたシュニッツェルでしょ」。そこに、アレックスが来てフェリーの隣に座る。「あの夕べから、あなたのことだけを考えてきました」。「そうなの?」。「僕もですよ」。「良くないわね」。「手紙を5通書きましたかが、すぐに破いてしまいました」。「僕は、あなたを3回夢に見ました」。「私、何してた?」。「僕の唇にキス」(3枚目の写真)。ヘレンカが笑い出す。「僕、あなたのことが死ぬほど好きです」。「いいこと、2人とも聞くのよ。忠告してあげる。あそこの建物が見えるでしょ。グランドパーク・ホテル。180人の女の子がいるわ。ぴったりの娘(こ)が見つかるわよ」。それだけ言って、ヘレンカはさっさと席を立つ。その後で、2人の口論が始まる。「頭がどうかしちまったのか?」。「彼女は、君だけのものじゃない」。「待ってろと言ったろ」。「僕に命令するな」。「キスの話なんかして」。「君が、だらだら話してるからだ」。「君は、合唱団で一番なんだから、彼女くらい寄越せよ」。「もう忘れちゃったのか? 血盟の友は、何でも分け合うんだ」。その時、爆発音がして口論は終わる。

2人がカフェから道路に出てみると、真っ黒な爆煙が近くで上がっている(1枚目の写真)。パルチザンによるドイツ軍に対する攻撃だ。団長は外に出ていた団員全員を、安全確保のため宿舎のホテル内に集める。人影のなくなった町には、チェコ警察の車が、「特別許可を得ずして外出して捕まった者は、死罪に処せられる」とアナウンスしながら走っている。宿舎の食堂では、集められた団員の中から、「僕たち、パルチザンを見たよ。全員が機関銃を持ってた」。「全員じゃない。指揮官だけだ」と意見が飛び交う。騒ぎを収めた団長は、「いい知らせがある。9月8日、我らが合唱団は、ヒトラーユーゲントの12周年の記念式典で歌うことになった。これから、毎日、みっちり練習し、リハーサルもやる」(2枚目の写真)と言い、「校長先生と協議し、授業は免除とすることにした」と付け加える。団員は、前半の名誉には無反応だったが、後半の授業免除に歓声が上がる。そして、翌日の練習。曲は、ブルックナーの「Psalm(詩篇)」。練習を始める前に、団長は、「我らが最高のソリスト、ベネディクトは完全に声を失った。風邪かもしれんが、変声期が始まった可能性が高い。アレックス・ヴォルフはホテル・オイロップで後継者になれることを証明した。今日は彼がソロパートを歌う。前に出てきてくれるか?」と世代交代を告げる。アレックスは、最後尾から前に出てくる(3枚目の写真、矢印)。ここで、場面は変わり、警察署長のフィアラが、運転手に「4時に迎えに来てくれ」と言って、ホテル・オイロップに入っていく。そして、フロントに行き、ヘレンカに会いたいと告げる。署長がヘレンカの部屋に行くと、彼女は、グラスに白ワインを注ぎ(4枚目の写真)、「健康を」と言って渡し、自分もソファに座る。「何かご用ですか?」。署長は、いきなり、禁断の言葉を投げかける。「お兄さんは、どうしてる?」。ヘレンカの笑顔が消える。「何が、おっしゃりたいの?」。「襲撃されたトラックに、彼の痕跡が」。「ヴラデックは2年前に死んだわ。それに、亡くなる前から、連絡も途絶えてたし」。「我々が把握していることは、彼が2年前に “消えた” ということだけだ。だから、死んだとは思っていない」〔署長が何のために来たのかは、よく分からない。単なる脅しによる情報提供の強要か?〕

翌朝、アレックスがまだベッドに横になっていると、団長が入ってきて、ヨハネスが泣き始める。団長は、「ヨハネスは、今、知らせを受け取った。ご両親が爆撃を受けて亡くなった」と同室の団員に教える。さっそく寄って行ったのはフェリー。ヨハネスの肩に手を置いて慰める。アレックスも、ベッドの上から同情して見ている(1枚目の写真)。そして、しばらくして、団長のオフィスに署長が現れる。署長の表情を見て、団長は秘書を部屋から出す。署長:「少年を引き取りに来た。彼の素性については、誰も知らないと思う。病気ということにして連れて行くのが いいんじゃないかな」(2枚目の写真)。団長:「今、合唱団の全員が、ヒトラーユーゲントと一緒に庭園に出ている。私は2時にはそこに行かないと。4時に戻って来てくれれば、それまでに手配を済ませ、鞄を持って待たせておくようにしよう」。署長が帰ると、団長は蒼白な顔で、すぐ妹に会いに行く。「フィアラの奴が今 出ていった。あいつは、アレックスを連れて行く気だ。ユダヤ人だと主張してな。奴は4時に戻ってくる。お前さんは、あの子をどこかに隠しておいてくれ。私はトレボン〔チェコ名:Třeboň〕のガウライターのところに行く。助けてくれるはずだ」(3枚目の写真)。団長は車〔恐らくFiat 1500 Viotti Convertible〕を運転してトレボン城に向かう。城に着いた団長は、会食中のガウライターを緊急用件で呼び出す。「何が起きた?」。「お邪魔して済みません。でも、ゲシュタポが、ソリストを取り上げてしまいます」。

庭園にいた団員が、昼食をとりに食堂に帰ってくる。セルフなので、団員が並んでいると、そこに団長の妹がやってきて、アレックスに声をかけ(1枚目の写真)、振り向いたアレックスに、「一緒に来てちょうだい。特別にリハーサルをしてもらう」と言って、食堂から連れ出す。それを、何事かとフェリーが見ている(2枚目の写真、右側は給仕当番の団員)。そして、いよいよガウライターの出番。団長の依頼を受け、電話をかけている。電話の相手:「そんな、ご命令は…」。ガウライター:「ああ、分かっとる。だがな、その少年は合唱団のソリストなんだ。プラハで予定している9月8日のヒットラーユーゲントの12周年で歌うんだ。その時まで君が待ってくれれば、合唱団の団長は喜ぶだろう」(3枚目の写真)。「分かりました。ハラーSS大佐〔Standartenführer〕に、そう伝えます」。「ありがとう。さようなら」。受話器を置いて、団長に頷く。団長は、「このことは決して忘れません。ありがとうございました」と感謝する。ガウライターは、この種の依頼にあまり何度も来ないこと、今回の件は口外しないよう念を押して会食に戻る。その日の夜になり、署長のところに電話が入る。「時が来るまで、少年は放っておくんだ。分かったな?」(4枚目の写真)。「どういうことです? 何か不都合でも?」。「必要になった段階で、電話する」。

翌朝、フェリーがベッドに寝転んでいると、そこにアレックスが鼻歌交じりで入って来る。どうやら、一晩中部屋を空けていたらしい。「団長のいない特別リハーサルって、何なんだ?」。「リハーサルじゃなかった」。「じゃあ、何だった?」(1枚目の写真)。その返事が、如何にもアレックスらしい。「アリスとの最初のデートさ」〔アリスは団長の妹。相手がだんだん年増になっていく/俳優さんは撮影の翌年51歳で他界した〕。「嘘だ」。「嘘じゃない」。「嘘に決まってるだろ、このガラクタ」。「夢のようだ。キスもしたんだ」(2枚目の写真)「愛撫もしてくれた〔gestreichelt〕。別れ際には、耳元でささやいたんだ。『今夜いらっしゃい』って」。フェリーは、如何にもワザらしい嘘に怒り(3枚目の写真)、ベッドから起きてアレックスに飛びかかり、「このムカつくネズミ!」と、イスから突き落とす。「やったな!」。ここから、2人の取っ組み合い。「この穢(けが)らわしい虫め! 思い知らせてやる!」。「僕に命令するな!」。「泡ぶくみたいな知識で〔Tau von Tuten und Blasen〕カサノバ〔漁色の貴族〕の真似事か!」。そして、合唱団のシーン。ベンが正式に退団する。団長は、全員の前で、「彼は3年間、合唱団のナンバー1だった。みんなも、彼から いろいろ学んだと思う。悪い面もあっただろうが、我々にとって彼は常にベストだった。しかし、時は容赦なく進んでいく。そして、声が出なくなり 彼は去って行く。我らが、“首領” のために、3回 “万歳” しよう」。全員で、3回、「オー」と叫ぶ。

アレックスは、制服を着ると、街角で花束を買う。フェリーは、それとは全く別に、やはり制服を着て、ホテル・オイロップに向かう。そして、合唱の時に会った、“年季の入った従業員” に、「この手紙、ヘレンカに渡すには、どうすればいいの?」と尋ねる。「渡しておこう」。「ううん、直接渡したいんだ」。一方の、アレックス。ヘレンカの家に行き、ドアのベルを押す。すると、ヘレンカがドアを開ける(1枚目の写真、矢印は花束)。ヘレンカは、溜息をつくと、「驚かないわ」と言って、中に入れる。居間に招じ入れられると、ソファには既に手紙を持ったフェリーが座っていた。アレックスは、鼻で笑って「また君か」と言う。フェリーも負けていない。「そいつを渡して、さっさと出てけよ」。「この女性は、君のものじゃない」。「今夜は、僕のものだ」。「また、散歩に誘うのか?」。「そうだ」。「どこに行くか訊いていい?」。「いいや」。「ロバ」。「サル」。2人の口喧嘩の最後は、定番のこの罵り合い。その頃、ヘレンカは、母に、「トムとパヴレック宛の箱はワインセラーのドアのところ。彼らは9時に取りに来る」と話す〔彼女は、パルチザンの手伝いをしている〕。居間に戻ってきたヘレンカは、「5分あげる。簡単に話して」と要求する。「ヘレンカ、アレックスと僕は、もう何年も友達だったって、知っておいて欲しい」。「僕たち、血盟の友なんだ」。「でも、2人ともあなたが好きになって…」。「全部、ぶち壊し」。ヘレンカ:「何が壊れたの?」。「僕らの友情」(2枚目の写真)。「なぜ忠告を聞いて、グランドパーク・ホテルで誰か見つけなかったの?」。「そんな問題じゃないんだ」。「僕たち、他の女の子なんかどうだっていい」。「同じ年頃の子を探しなさい」。フェリー:「でも、ヘレンカ、僕たちあなたに恋をしたんだ」。「あなた達、一方的にのぼせてるだけよ」。アレックス:「じゃあ、僕らのこと、何とも思わないの?」。「恋してないことは確かね」。2人はがっかりする。「でも、あなた達は勇敢だわ。正直なところも好感が持てる。素敵よ」(3枚目の写真)「感情を隠さない男なんて稀なの。もし、私が、あなた達くらい若かったら、きっと恋してたと思うわ」。この言葉で、2人はホッとし、ヘレンカと握手して出ていく。場面は変わり、フィアラ署長が、女性2人から、「ヘレンカからの情報よ」と言われ、ニッコリほほ笑んでいる。何を聞いたのかは、その時点では分からない。口笛を吹きながら署に戻ってきたフィアラは、すぐに受話器を取ると、SSのゼーバー曹長〔Oberscharführer〕と話し始める。「今日は、曹長さん。フィアラです。重要な情報です。プルシャーンキ〔Prušánky〕の近くでパルチザンどもが見られています。もし、よろしければ、誰かを潜入させましょうか?」。「そうしてくれ」。

アレックスがソロの練習をしていると(1枚目の写真)、ドアがバタンと開き、KLV指導員が入って来る。団長:「何事だ?」。「午後のプログラムの説明に来ました」。それによれば、昼食後、赤と白の組に分かれて屋外でゲームをするという内容だった。画面は、すぐに森の中に移り、“組ごとの隠れん坊” が始まる。アレックスのいる白組が隠れる方で、赤組が捜す方。それは一種の罠で、白組は、わざと見つかるところに誘導される。そして、逃げるアレックスを捕まえたのは、赤組に扮したベン。明らかに意図的に仕組んだものだ。ベンに組み敷かれたアレックスは、「よお、バンビ」と言われ、「放っといてよ」と言うが、ベンは「まだ、さよならも言ってなかったな」とニタニタ。アレックスは、「この、ひねくれ者! フェリー!」と助けを求める。ベン:「マックス、ここに冷やして欲しがってる奴がいるぞ」。アレックスは2人に両手両足を持たれ(2枚目の写真)、そのまま池に投げ込まれる。しかし、アレックスは全く泳げない。フェリーは、自分を押さえていた2人を跳ね飛ばし、池まで走る。「このキチガイ! 彼、泳げないんだぞ!」とベンをなじり、すぐに池に飛び込む。しかし、もう水面にはアレックスの姿はない。それを見て、ようやくベンも心配になる〔アレックスの命ではなく、水死させたかもしれないことが〕。フェリーは、水に潜ってアレックスを引っ張り上げ、そのまま岸まで泳ぐが、アレックスは気を失ったままだ。誰も人工呼吸を知らないので、アレックスは、心拍停止の状態で岸に横たえられる。すると、奇跡的に、自ら水を吐き出し(3枚目の写真)、呼吸を始める。

アレックスが医務室のベッドで寝ていると、フェリーが来て、「君の両親から、手紙だ」と言って封筒を渡す(1枚目の写真、矢印)。フェリーは、「オレンジ・ティー飲むか?」と優しく訊く。「あるの?」。「厨房に行けばな」(2枚目の写真)。こう言って、フェリーは、手紙を読む間、アレックスを1人にしてやる。手紙には、こう書いてあった。「親愛なるアレックス。私達は、あなたの所に行って抱きしめたいと思っているわ。でも、2人とも爆撃で負傷して病院にいるの。遥か昔の話を持ち出してごめんなさい。私達は、あなたが戻ったら話そうと思っていたの」(3枚目の写真)「でも、合唱団の団長さんが今、話すべきだとおっしゃるから。最近は、恐ろしいことがいっぱい起きているから、あなたは、何も知らない方がいいと考えていたの。どうか、私達を信じてちょうだい。私達はあなたを守ろうとしただけなの」。非常に曖昧な内容で、アレックスが手紙を読んでいるシーンの中には、「ユダヤ」という言葉はどこにもない。恐らく、この文章の前後に、本当の両親の名前や、アレックスを引き取ることになった経緯が書かれていたに違いない。

その直後、フェリーが庭園のベンチで母と話している。「彼ら〔アレックスの両親〕は、5年前に話すべきだった。少なくとも、4年前に…」(1枚目の写真)。「ご両親が 何を思ってらしたか、あなたは理解してないわ」。「彼らは大きな間違いを犯したんだ」。「小さな子供に話しても、理解できないわ」。次は、ベッドで寝ているアレックスに、団長が話しかける。両親からの手紙は、灰皿の上で燃やされている。「君は何も知らない。訊かれたら、すべて否定しろ。手紙の内容から察するに、君は割礼を受けていない。それは有利に働く」(2枚目の写真)「これからずっと、部屋から出るな。リハーサルにのみ参加しろ。いいな」。妹は、ベッドまで来て横に座ると、アレックスの顔を抱き、「コンサートまでは、恐れることは何もないわ」(3枚目の写真)「問題は、終わってから。解決策を探しましょうね」と優しく言い、チラと兄の顔を見る〔兄に善後策を催促している〕。再び、ベンチ。母は、自分のことを話す。「あなたがいなくて寂しかったわ。今すぐにでも家に連れて帰りたいけど、家はもうなくなったの〔爆撃で破壊された〕。ここ数週間、20人で1つのあばら屋〔Behelfsbaracke〕に住んでるわ。カップフェンシュタイン〔Kapfenstein/オーストリア南東端のイタリア国境近く〕で、ミッツィ叔母さんに会えるといいんだけど。私達用の2部屋くらいあるから」。「ママ、僕のことは心配しないで」〔フェリーにとっては、ユダヤと分かったアレックスのことだけが心配〕

夜になり、アレックスに飲み物を持ってきたフェリーは、コップを渡した後、じっとアレックスを見ている。「何を そんなに見てるの?」。「君は、ぜんぜんユダヤ人に見えないな。黒っぽい目じゃないし、鉤鼻でもない。金の亡者でもない」〔『ベニスの商人』のシャイロックや、『クリスマス・キャロル』のスクルージ的なユダヤ人観〕。「たぶん、ユダヤ人じゃないのかも」。「たぶん、半分なんだ」。「4分の1かも」。「取り違えたとか〔赤ちゃんの時、病院で間違って〕」。「モーゼのように追い出されたとか」(1枚目の写真)。「“王の認められない息子” だって言いたいのか?」。「なぜ、いけない?」。「売春婦の子かも」。「王だ」。「売春婦!」。「王!」〔旧約聖書には、「その子(モーゼ)が成長したので、彼女(乳母)はこれをパロ(王)の娘のところに連れて行った。そして彼はその子となった」としか書かれていない。「その」は「パロの娘」を指すので、王の子となったわけではない。だから、2人の議論は聖書から逸脱している。ただし、日本でも、ある修道会などは、「その子は、モーゼと名づけられ、エジプトの王子の一人として育ちました。モーゼは、王子として英才教育を受け、軍の最高司令官も経験します」としているし、「Moses was a prince in Egypt」という標題の教会ニュースを載せたアメリカのサイトもある。どこまでがフェイクなのか?〕。口論が終わった後、フェリーは、「君が誰の子でも構わない。大事なのは、君が僕の血盟の友だってことだ」と言って、涙を流す(3枚目の写真)。ここで、場面が変わり、署長が得意げに署に入って行くと、先日のSSの少佐が待ち構えていて、「自己陶酔のチビ助のお出ましか」とフィアラをなじる。そして、「君の言っていたプルシャーンキのパルチザンは、パルチザンと戦っていてくれるウクライナの警察だった」。「私の情報では…」。「味方を全滅させたんだぞ。これが、どんな教訓を与えたか分かるか?」。「原因を突き止めます、司令官殿。お約束します」。「すぐやれ。でないと、生皮を剥いでやる」(3枚目の写真)〔ここで、よく分からないのは、先にフィアラが情報を流した相手は “軍曹”。そして、今回、その結果を責めているのは少佐。階級が違いすぎる気がする。これが脚本ミスで、情報を流した相手が少佐だとすれば、全体がぴったりする〕

9月8日の朝のリハーサル。団員が歌い終わると、団長は、満足げに、「もし、夜もこの調子で歌えれば、我々はウィーン少年合唱団を超えられる。君たちを誇りに思うぞ」と褒め、「さあ、後は部屋に戻って制服を整えるんだ。昼には何も食べちゃいかん。空腹気味の方が、いい声がでるからな」と命じる(1枚目の写真)。「では、今からちょうど3時間後に、ホテルの前に集合すること」。部屋に戻ったアレックスは、手鏡に映った自分の顔に向かって、「お前は、アレキサンダー・ヴィルフ、ゲアハルトとヘルタ・ヴォルフの息子だ」(2枚目の写真)「お前は、フェリー・ガイヤーの血盟の友で、合唱団の新しいソリストだ。このままずっと、そうあり続けるだろう。少なくとも、戦争が終わるまでは」と、自らを鼓舞する〔チェコでの戦争終結まであと僅か13日〕。そこに、フェリーが入って来る。「何か要るもはあるか? 買い物に行ってくる」。「ないよ」。「新しいシャンプーとか、ヌード写真とか?」(2枚目の写真)。「買い物に行くんじゃなくて、ホテル・オイロップなんだろ?」。「ヘレンカに会いにね。一緒に行けないのは残念だな」〔アレックスは、部屋から出るなと命じられている〕。「入れてもらえないさ」。「君には関係ない」。「1人で行くなんて、問題外だ」。アレックスは、禁を破って部屋から出ていく。その頃、偽の情報をつかまされたことに腹を立てた署長は、ホテルに赴いてヘレンカに会おうとするが、高位の客が来ているという理由で、後で来るよう求められる。

2人はホテル・オイロップまで行くと、いつもの “年季の入った従業員” に頼み込む。アレックス:「僕たち、木曜まで待てないよ」。フェリー:「今日、これからコンサートに出かけなきゃいけない。その前に、大事なものを渡したいんだ」。「聞いてるぞ。プラハまで行くんだろ」。「トレボンだよ。ヒトラーユーゲントの式典は、トレボン城でやるんだ。ヒトラーも来るかも」(1枚目の写真)。「ヘレンカに、なぜ会いたい?」。「どうしても渡したいものがある」。「渡してあげよう」。「僕たち、直接渡したいんだ」。「彼女の部屋で」。その頃、署長は団長の部屋にいた。団長:「賛美歌が終わり次第、妹が彼をあんたの車まで連れて行く」(2枚目の写真)。署長:「前もって、彼の鞄を渡して欲しい」。「用意しよう」〔署長は、前に騙されたので、信用していない〕。映画では、順序が逆になるが、関連するので、先に紹介すると、“年季の入った従業員” は、パルチザンのボスのヴラデックに電話をかけ、合唱団の行き先がプラハからトレボン城に変わったことを知らせる(3枚目の写真)。

ヘレンカが、“娼婦” という仕事に疲れ切ってソファに横になった瞬間、ドアがノックされる。ヘレンカが、頭にきてドアを開けると、腕の下をすり抜けて2人が、「長く邪魔しないから」と言いながら部屋に入り込む。アレックスは、時間を無駄にせず、「これ、今日のトレボン城への招待状だよ」と、封筒を渡す。フェリーは、「招待状は限定版だったから、入手困難なんだよ」と言い(1枚目の写真)、アレックスが、「両親がハラインから来るって話して、ようやく手に入れた」と打ち明ける。ヘレンカは、それを聞いて、2人をソファに座らせる。「どうもありがとう。親切なのね。でも、行けるかしら。私の車、故障中なの」。「僕らのバスに同乗したら? 団長が喜ぶよ」。「自分で何とかするわ。それで、見返りに何が欲しいの?」。2人は、「えーと」と口ごもる。「その『えーと』は、何なの?」。アレックス:「思ったんだけど…」。フェリー:「できれば… キスしてもらえる?」。「何といっても、僕らが最初に恋した女(ひと)だから」。その時、フロントから電話がかかり、フィアラの “犬〔Hunde〕” が向かったとご注進。ヘレンカは、一計を案じ、2人をキングサイズのベッドに寝かせてシーツを被せ、フェリーの頭髪と、靴を脱がせたアレックスの裸足だけが見えるようにしてドアを開ける。“犬” は、「署長が会いたがってる」と言うと、ヘレンカは、「今、将校さんがお客なの。まさか、放り出せないでしょ」と言う。警官は、ベッドの頭髪と足を見て、客がまだいることを確認すると、「外で待つ」と言ってドアを閉める。ヘレンカは、わざと外に聞こえるように、「中尉〔Obersturmführer〕さん、もう一杯いかが?」「乾杯」、などと大きな声で楽しそうに言いながら、そっとシーツをめくると、唇に指を当てて静かにするよう合図し(2枚目の写真)、「静かに、ドアはそこよ」と隠し扉の位置を教え、“中尉” とふざける声を出しながら、3人で部屋から出ていく(3枚目の写真)。声がしなくなったので不審に思った “犬” の2人がドアをこじ開けて中に入ると、そこは、もぬけの殻だった。悔しがっても後の祭り。隠し扉から外に出たヘレンカは、2人に、「走って宿舎に戻りなさい。ただし、裏道を通って。もし、どこにいたか訊かれたら、ホテル・オイロップじゃなくカフェ・ヤルダンって言うのよ。もちろん、私とは会ってない。いいわね?」と言う。2人が不満そうなので、ヘレンカは、まずアレックスの唇に優しくキスし(4枚目の写真)、次に、フェリーにも同じようにキスする。「さようなら、冒険家君たち」。そして、ヘレンカは、かりそめの娼婦からパルチザンのボスの妹に戻る。もう二度と町には戻らない覚悟で。

2人は、宿舎のホテルに向かって走るが、団員はすでに全員バスに乗り込んでいて、女性のサポーターが、「2人の悪戯坊主はどこなんです?」と団長に尋ねる。「知るもんか!」。すると、2人が走ってくるのが見える(1枚目の写真)。「来たぞ」。「ごめんさない」。「急げ!」。バスはすぐに出発する。団長の妹だけは、車を運転して城に向かう。バスのなかで、団長は、アレックスに “逃走計画” について話す。「牧草地を全速で駆け抜け、青い家に向かうんだ。ツィエローヴァさんという女性が君を待っている」。「はい」。「このことは、フェリーには話してない。君も話すんじゃないぞ。万一失敗した時に、彼を巻き込みたくない」。バスは、薄暗くなりかけた頃、城の前に着く(3枚目の写真)〔映画のロケ地はすべてルーマニアで行われていて、この建物は、CăciulațiのGhica宮殿〕。城の前にいる署長は、同行してきた部下に、オストラヴァ〔Ostrava〕経由で行く。他の道は危険だ」と話している〔オストラヴァはポーランド国境に近い都市で、城からは直線距離で270キロも離れているし、オストラヴァまで行ったら、もうポーランドに入るしかない。どこか矛盾を感じる〕。そこに、約束通り、アレックスの鞄を持った団長の妹がやって来る。妹は、署長に招待状を見せ、「コンサートを聴かれたら? 席を用意してありますよ」と誘う(4枚目の写真)。「必要なことは、ここにいても聴けます」〔必要なこととは、コンサートが終わったことの確認。団長の言葉を信用していないので、終わり次第 自ら逮捕するつもり〕

式典の開会にあたり、ガウライターが挨拶に立つ。「来賓の皆さん。戦況により我らが総統はここに来られません。その代わりに電報を送って下さいました」と言うと、電報を読み上げる(1枚目の写真)。「ヒトラーユーゲントの12周年、大変おめでとう。諸君らの力を千年帝国のために捧げて欲しい。蒔(ま)いた種が千倍以上に育たんことを。アドルフ・ヒトラー」。そして、「フランツ・ピーター・ホフマンが指揮するテオドール・コンラッド合唱団をお聴き下さい。ホフマン氏が総統に捧げるため一心に作曲しました。どうぞ」。ホフマンは、階段を降りると、テラス上の合唱団に向かって指揮をとる(2枚目の写真)。まず、アレックスがソロで歌い、それに合唱が続く(3枚目の写真)(→♪♪♪)。歌が終わると、拍手が起きる(4枚目の写真、矢印はガウライター、彼は拍手していない。アレックスがユダヤ人だから?)。

映画では、順序が若干異なるが、ガウライターが拍手をしながら再び前に立つと、いきなり爆発音が聞こえ、パルチザンの攻撃が始まる(1枚目の写真)。来賓たちは逃げ惑う(2枚目の写真)。ガウライターだけは、いち早く、部下が車へと案内する。警護のドイツ兵は、パルチザンの前に総崩れ(3枚目の写真)。

パルチザンの攻撃の直前、演奏を終えたアレックスが舞台裏で団長の妹を待っていると、演奏の終わるのを待っていた署長がこっそり入り込んできて、アレックスを呼び寄せる(1枚目の写真)。「心配するな。すべて順調だ。少し計画が変わった」。「団長さんの妹さんは? 僕、一緒に行かないと…」。その声を聞いたフェリーは不審に思って後をつけて行く。ここで、パルチザンの総攻撃が始まる。署長は、アレックスを車まで連れてくる。「急げ」。「ホフマンさんはどこ?」。それを無視し、署長はアレックスを車に押し込む。アレックスは、チェコの警察の制服を知らないので、簡単に騙されてしまったのだ。この後、パルチザンの攻撃のシーンが続く。署長が運転席に乗ろうとすると、連れてきた部下2人が射殺されて地面に倒れている。そして、運転席に乗り込んでドアを閉めたところで、機関銃に撃たれて死ぬ(2枚目の写真)〔フロントガラスも運転席側の窓も銃撃で破損していない!〕。城の中を逃げ惑う人々。中にホフマン兄妹もいる。妹は、「アレックスは? 姿を見てない」と心配する。団員が、「フェリーとアレックス以外、全員います」と教える。「外にいるんだわ。捜さないと」。団長:「バカ言うんじゃない」。そして、攻撃はさらに続く。車のところまで来たフェリーは、後部ドアを開け、アレックスを見つけると、「出て来い。ここから逃げないと」と声をかける。「どこにも行かないから」。「来いよ、この臆病者!」。フェリーは、無理矢理に腕を引っ張ってアレックスを車から出す(3枚目の写真)。「行くぞ、急げ!」。

2人は森の中に逃げ込む。そのまま必死に走り続け、息が続かなくなったところで、上着を脱いで歩き始める。すると、「止まれ! 動くな! 誰だ? どこから来た?」と、2人の銃を持ったパルチザンに誰何(すいか)される(1枚目の写真)。その時、アレックスが腕に負傷していることが分かる。そして、2人とも どこかに連れて行かれる。「ここで待ってろ。訊いてくる」。1人が藪の中に入っていく。葉陰から見えたのは男女2人。ヴラデックとヘレンカの兄妹だ。2人には暗くてよく見えない。フェリー:「なあ、あれ ヘレンカか?」(2枚目の写真)。「分かんない」。ヘレンカは、「彼らを知ってる。危険人物じゃないわ。診療所に連れて行って」と兄に言う。声を聞いたフェリーは「彼女だ」と言い、アレックスも頷く。戻ってきたパルチザンは、「行くぞ、医者まで連れて行ってやる。そこなら安全だ」と、診療所まで案内する。そして、明け方が迫った頃、行く手に診療所が見える。「さあ行け。幸運を」。2人は走って診療所に向かう(3枚目の写真)。

翌朝、アレックスはベッドで目が覚める(1枚目の写真)。左上腕部には包帯が巻かれている。ゆっくりと体を起こし、あたりを見まわしてみる。負傷者と看護婦でいっぱいだ。そして、遠くにフェリーの姿を見つける(2枚目の写真)。フェリーは、アレックスの上着を持って近づいてくると、「これを着ろよ。すぐにコンサートだ」と言う。「何だって?」。「いいか。僕らは、1日に2回、負傷者のために歌うんだ」(3枚目の写真)「1回あたり10ライヒスマルクもらえる〔先の換算だと1万円になるが、多過ぎる気がする。敗戦寸前のためレートがぐっと下がったのだろう〕。医務長と取り決めた」。

2人は、負傷した患者を前にして歌い始める(1・2枚目の写真)(→♪♪♪)。2人は自然と手を握り合う(3枚目の写真)。血盟の友だから。すると、入口からホフマン兄妹が現れる。看護婦が、「2人をご存じですか?」と尋ねると、ホフマンは、「2人を迎えに来たんです」と答える。エンドクレジットの前に、「1945年、アレックスとフェリーはハラインに戻った。ホフマンは少年たちとともに、バイエルン〔ドイツ南東部〕で活動を続けた」と表示される〔この映画は、実話に基づいたものではないので、この後日談にあまり意味はない。そもそも、9月21日に、チェコ全域がソ連の赤軍とルーマニア軍、パルチザンによって解放される。その混乱の中で、この地に留まり続け、翌年にオーストリアやドイツに行けるのだろうか?〕

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